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常陸杜氏とは

『常陸杜氏(ひたちとうじ / hitachi tōji)』とは、地元杜氏の育成や茨城県産日本酒のブランド化の推進のため、茨城県酒造組合が茨城県産業技術イノベーションセンターの協力を受けて2019年に設立した認証制度です。

茨城県産業技術イノベーションセンターは、茨城県内の酒蔵で酒造りを行う人のための研修施設で、1997年から製造技術の育成に向けた研修をスタート。

2017年には旧来からの清酒製造の初級・中級プログラムに加え、上級者向けに杜氏育成コースを加え、「清酒製造カレッジ」としてカリキュラムを再構築。

学んだ方々のコメントには「ライバルであった県内酒蔵の技術者同士で、同じ品種でも年ごとに変わる米の取り扱い方やトラブル時の対応を相談することができた。」という声が多くあり、茨城県産地酒の品質の底上げに繋がる大きな役割を果たしています。

長年の研修の末、その結果が出始めた2019年。

日本酒の出来栄えを審査する中でも審査基準の厳格な「全国新酒鑑評会」にて、2019年、茨城県は過去最多の12点が金賞を受賞しました。

全国新酒鑑評会に出展した茨城県内の酒蔵は24蔵で、そのうち経営者や従業員が杜氏を担っている蔵は14蔵。

酒蔵の就労環境や経営状況等を背景に、近年地元杜氏が酒造りを担う役割が大きくなっています。

また、蔵元杜氏や地元従業員が杜氏を担うことにより、さらなる茨城地酒のレベルアップ・ブランド力アップのために『常陸杜氏』として茨城の日本酒を全国へそして世界へ発信していくために認定された制度となっています。

 

茨城県酒蔵の杜氏・蔵人の現状

茨城県の酒蔵では、従来、清酒の製造シーズンである冬期に従事してくれる杜氏および蔵人を季節労働者として採用してきました。

その多くは「越後杜氏」発祥の新潟県、「南部杜氏」発祥の岩手県周辺の東北エリアからの農家等が、豪雪地帯での農業は難しいため冬季の出稼ぎ場所として茨城県で酒造りを担ってきた歴史があります。

夏に酒造りをしない酒蔵にとっても、年間雇用を必要とせず、必要労働力が極大となる冬期のみの雇用であることは、経営的にも非常にありがたい存在でした。

互いに貴重な収入源としての側面から、補完関係を築いてきました。

しかし、現在においては

  • 就農人口の大きな減少
  • 安定した労働環境への希望
  • 消費量減少により酒蔵の経営状況悪化

等から

杜氏や蔵人としての就労者の減少は避けられず、蔵元で後継者を募るも経営の厳しさから他の職業に従事。

必然的に人材の高齢化が進み、廃業する蔵が後を絶たないのが現状です。

また近年、清酒の消費量はパック酒に代表されるような合成清酒や、普通酒・本醸造酒等から、純米吟醸酒等を中心とした純米系の特定名称酒ブームの影響もあり、清酒に求められる酒質のレベルはますます高度化しています。

しかし、醸造スキルの高度化、人材雇用の困難さ、税金や社会保障費などの負担が増える中、日本酒の価格を大幅に上げられない現状があります。

製造設備が近代化した現代においても、蔵元を含め、杜氏や蔵人に求められる心理的かつ体力的な負担、高度な醸造技術力、時流を読みながらスピーディーに投資判断していく負担等はますます大きなものとなっています。

 

常陸杜氏が創設された背景

常陸杜氏が創設された理由は、一言でいうと「茨城地酒のブランドアップのため」です。

しかし、なぜ地酒をここまで押し出す必要があるのでしょうか。

上述したように、長年の日本経済の停滞による人材雇用問題に加え、グローバル化によるビール・ハイボール・ワイン等アルコールの台頭が挙げられます。

現在、清酒を取り巻く国内販売の現状は厳しさを増し、茨城県内の清酒事業所数は減少の一途を辿っています。

2019年4月1日時点における、茨城県酒造業界の状況です。

1)酒造事業所数 39社

2)事業形態
実醸造社数 37社
委託醸造    2社

3)杜氏の内訳
南部杜氏 12社
地元杜氏 20社(南部杜氏資格所有でも、出稼ぎでない地元社員等を含む)

清酒の消費量は、近年の純米吟醸酒等を中心とした特定名称酒ブームの影響もあり、一時期よりは下げ止まり傾向がありますが、それでも減少に歯止めがかかりません。


©︎livedoornews

 

一方で、海外への輸出は、9年連続で増加。輸出金額は約3倍!
©︎Shippio

 

国内マーケットは横ばい、海外マーケットは右肩上がり。
日本酒業界には明るい兆しのように見えます。

しかし業界全体に均一の恩恵があるわけではなく、業界内・地域における格差がより際だってきています。

とりわけ茨城県では、従来より特定名称酒以外の日本酒を多く産出する県であり、清酒としては美味しいものの、銘柄を前面に出さない酒を多く造ってきたため、”茨城の酒”として認知され辛い傾向があります。

最近では海外の人々も日本酒の旨味”Umami”や、普通酒、純米酒、本醸造などのそれぞれの日本酒の味わいの深さを理解できるようになってきたものの、海外で日本酒を手にしたいと思う富裕層は「高価格帯酒」「ソムリエのオススメ」に信頼を置く現状があります。

そのような中で茨城県内事業所数・造り手の減少で厳しい中、自社製品を県外へ、海外へPRするための施策が重要且つ深刻な問題となっています。

また近年は、各個別の企業ブランド力も重要であると同時に、「地域」というブランド力も大変重要な要素となってきています。

従来から日本酒のブランドといえば、兵庫の灘、京都の伏見。
その後、広島や静岡。

そして現在は新潟、岩手、山形、福島等の東北エリアが圧倒的な「地域」のブランド力として人気が集まっています。

ここで、茨城県でも、通年で清酒製造管理の出来る優秀な自社の酒造技術者を養成することによって、自社清酒のレベル向上にとどまらず、茨城県全体の品質の底上げとそれに伴ったブランド戦略の柱として2019年に『常陸杜氏』が創設されました。

 

常陸杜氏となるためには

酒造技術や杜氏資格のボーダレス化はますます進んでおり、造り手本人の自覚と熱意があれば酒造に関する情報や他の地域の杜氏資格を取得することは以前に比べ遙かに容易になった昨今。

そのような中、あえて『常陸杜氏』の資格を取得する意義は、全国多数の地域の醸造技術を情報収集、研究、理解して、これらを地域の中に落とし込み、自らの中で再構築し応用出来る技術者を輩出すること。

また、茨城県の米・水・気候を他の地域の誰よりも理解し自らの技術と言葉で伝えることが出来る人物を『常陸杜氏』として認証することにより「茨城の酒」を明確に定義したいという県の想いがあるのではと推測します。

受験資格は、経験年数や茨城県産業技術イノベーションセンター開催の特定の研修を受講していることや、国家資格である酒造技能士1級保持者または取得予定者等となっています。
(詳細は後編のブログ『常陸杜氏』の認定試験についてにて。)

試験は、茨城県の知名度を上げる方法を述べるような小論文、テイスティングの実技、醸造の知識を問う筆記と面接が行われます。

ジャッジするのは、茨城県産業技術イノベーションセンター長を委員長とした「認定委員」の5名。

初回の2019年では、3名の『常陸杜氏』が誕生しました!

 

『常陸杜氏』第1号は、地元杜氏3名が認証されました!

  • 茨城県酒造組合に加盟する酒造会社で製造責任者を3年以上経験
  • 茨城県産業技術イノベーションセンターが開催する研修の受講
  • 国家資格である酒造技能士1級の保有

などの条件を満たし、認定試験に合格すれば認証を受けられる『常陸杜氏』。

2019年に初めて創設され、11月22日にホテル・ザ・ウエストヒルズ・水戸(水戸市)で認証式が開催されました。

認証を受けたのは以下の3名の杜氏です。

  • 森島酒造株式会社(日立市)森嶋正一郎さん
  • 結城酒造株式会社(結城市)浦里美智子さん
  • 吉久保酒造株式会社(水戸市)鈴木忠幸さん


©︎毎日新聞

茨城県では、2019年に『常陸杜氏』認証制度とともに、7月にJR常磐線・水戸駅、9月にはつくばエクスプレス・つくば駅に “IBARAKI JIZAKE BAR” をオープン。

県内外の人が多数行き交う県内主要駅で、茨城地酒のPRを展開中です。

私、Hirokoが『常陸杜氏』の創設について感じたこと。

それは『常陸杜氏』という資格が杜氏や業界の方々だけのものではなく、多くの茨城県民自身が茨城地酒を通じて、アイデンティティを語るきっかけになったのかなと思います。

すべての商品・作品は、機械ではなく、人が手をかけて造るもの。

とりわけ酒蔵は、国内に支店が持つことのできない地域の重要な観光資源であり、そこで醸す日本酒の職人を知り、応援したいと想う気持ちで、忘れかけた当たり前にある地元への愛着が湧いてくるものではないかなと思いました(*´-`)

これからの『常陸杜氏』のご活躍に乞うご期待!