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株式会社山中酒造店とは

茨城県常総市新石下で200年以上、酒造業を営む株式会社山中酒造店(やまなかしゅぞうてん)

当主である山中家の祖先は、1650年頃、山梨県富士吉田市周辺から現在蔵のある茨城県常総市新石下(旧石下町)へ移り住んだといわれています。

近江の国(現在の滋賀県北東部)に由縁を持ち、江戸時代前期から近江商人の手によって日本酒のほか味噌、醤油などを醸造していました。

しかし、江戸時代後期の1805年(文化2年)に火災にあった蔵は、歴史的な資料をすべて焼失しました。そのため便宜上、この火災のあった年を酒造の創業年とし、初代・山中与右衛門氏により酒造業が始まったとされています。

現在、代表取締役を勤める山中直次郎氏で8代目となり、9代目の専務・山中直昭氏が蔵元杜氏として酒造及び蔵の経営を継承しています。

酒造にそれほど適していない蔵の環境でしたが、1944年(昭和19年)、関東の酒蔵として初めて、第15回 全国新酒鑑評会で第一位を受賞します。

のちに、この栄光が讃えられた杜氏と蔵元は、業務に精励し民衆の模範となる者が内閣の助言と承認により天皇から授与される“黄綬褒章”を受賞しました。

1953年に法人化、1970年以降は特定名称酒のみの生産体制に移行し、1980年代以降に海外輸出にも取り組みます。

酒造りは代々、越後杜氏が担当していましたが、杜氏の後継者不足から、2002年以降は9代目の山中直昭氏を中心とした社員のみによる酒造りが行われています。

 

山中酒造店の銘柄【一人娘】の誕生と理念

創業当時の山中酒造店の日本酒銘柄は「金清」。

1887年(明治20年)から、現在の銘柄【一人娘】(ひとりむすめ / HITORI MUSUME)を蔵の唯一無二のブランドとして国内外で販売されています。

清酒【一人娘】は、“骨身を削るほど苦心してできあがった珠玉のような銘酒を我が子に喩えて名付けたこと” が銘柄の由来となっています。

一人娘が全国新酒鑑評会で第一位を受賞した当時、山中酒造店で杜氏を務めていたのは越後杜氏の平石小市郎氏。新潟県の醸造試験所の酒造技能工・第一期をトップで卒業後、山中酒造店に蔵入りし、43年勤め上げた名杜氏でした。

その意思を引き継いだ田中徳代氏が30年超の杜氏を経て、現在は蔵元杜氏の山中直昭氏が約20年に渡り、一人娘を育てるように愛情と眞心を込めて日本酒を仕込んでいます。

蔵元が理想とするのは、

さわりなく、真水のごとき酒質。

その意味するところは、「でしゃばることなく、食事の邪魔をせず、食事を引き立てる淡麗な酒」。

日本酒業界で最難関の品評会である全国新酒鑑評会のほか、平成の初期にロバート・モンダヴィが会長を務めたIWSC(International Wine & Spirit Competition)でも1997年に金メダルを受賞しました。

そんな山中酒造店の酒造りには、どのような秘密が隠されているのか、紐解いていきましょう。

 

清酒【一人娘】の特徴は、軟水と二段仕込みの淡麗辛口酒

日本酒醸造において、仕込水に「硬水」が適しているというのは業界の常識です。

しかし、鬼怒川から取水した『軟水』を使用し、腐造リスクの高い『二段仕込み』で淡麗辛口の日本酒を産み出した技術が、山中酒造店の醸造の特徴であり他蔵との違いです。

硬水の中には、カリウム、マグネシウム、クロール、リン酸などの発酵を促すミネラル成分が多く含まれているため、腐造の失敗が少なく、酒造りに適しています。

一方、『軟水』で仕込むということは、目標の値まで発酵が進まない可能性があり、発酵を止めずに最終工程までたどり着かせるため常に神経を尖らせていなければなりません。

蔵のすぐ西側を流れる鬼怒川周辺に、かつて飯沼という大きな沼がありましたが、田んぼの面積を広げようと、江戸時代中期の1725年(享保10年)、沿岸の鴻野山村の村人たちにより沼地を開墾しました。

干拓地となった土壌、そこから流れる川の水は、硬度を測ればほとんどが軟水。鬼怒川の水に加え、硬水がわずかに含まれる井戸水を混ぜて造りをおこなっていましたが、現代と異なり、発酵技術が未発達であったこの時代には、大変な苦労がありました。

そこで、安定醸造のため導き出した技術が『二段仕込み』。

酒造りは一般的に、酒母・水・麹・蒸米をタンク等に3度に分けて行う三段仕込み方式。しかし発酵力が弱く長期で仕込むことが困難な軟水の弱点を補うため、1度目の仕込み時に発酵力の強い酵母を大量に投入して一気に辛口に仕上げ、2回目の仕込で軟水により中和することで醸造と味わいのバランスを取りました。

現在も二段仕込みを行う蔵はほとんどないのは、急激に発酵温度が上昇することによる腐造のリスクがあるためだといいます。

良い酒を造るのはあたりまえで、そこにアイデンティティがなければ世に認めてもらえることはない

と語る山中社長。

その土地が持つ困難な醸造環境を前向きに捉え、蔵独自のオリジナリティとして、先人の活きた知惠を継承し続ける山中酒造店。

他蔵の日本酒と飲み比べても似た味わいを探すことが難しい清酒【一人娘】とは、果たしてどんな味わいなのでしょう。

とても気になりますが、そのお話は、次回のブログ記事でご紹介しますね!

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【県西酒蔵見学】株式会社山中酒造店へサケメグリにいってきました!

 

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株式会社 山中酒造店
かぶしきがいしゃ やまなかしゅぞうてん
YAMANAKA Shuzo Co. Ltd.
代表取締役:山中 直次郎
創業:1805年(文化2年)
設立:1953年(昭和28年)
住所:〒300-2706 茨城県常総市新石下187
TEL:0297-42-2004
Web:https://hitorimusume.co.jp
蔵見学:事前予約制。日曜定休。
営業時間:
【本社】 9:00-17:00(月~金)
【直売所】9:00-17:30(月~金)10:00-17:00(土日祝)
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